サヨリヤドリムシの仲間はチヌの稚魚を「中間宿主」として使う!

右の鰓にウオノエがついたクロダイ (チヌ) の稚魚 (大きさ2 cmくらい)

魚の鰓や口、腹の中、もしくは体の表面に寄生するダンゴムシのような寄生虫、ウオノエ科寄生虫ですが、実際に環境中でどのように生涯を過ごしているのかは、実はあまりわかっていません。

タイノエやサヨリヤドリムシなど、数少ない種では生活史が推測されています。タイノエサヨリヤドリムシの生活史はこちらで解説しています。

両方の生活史で共通なのは、寄生する魚類(宿主)が一種類しか登場しないことです。サヨリヤドリムシだと、

サヨリに寄生していた寄生虫の親が海中に子供 (マンカ) を生む→マンカが海中で寄生できるサヨリを探して泳ぎ回る→サヨリを見つけると寄生する→サヨリの上で成長して、同じ魚体に寄生した雌雄で交尾して次の子供を生む

という感じです。

しかし、実際にはウオノエ科寄生虫のライフサイクルはそこまで単純では無いようです。今回は、ウオノエの生活史を考える上で考えなければならない、不思議な現象についての研究を紹介します。

クロダイ稚魚に寄生するサヨリヤドリムシ

2000年、瀬戸内海・広島湾のクロダイ(チヌ)稚魚の鰓に寄生する謎の寄生虫が見つかりました1。サヨリヤドリムシの仲間のようなのですが、困ったことに見つかる寄生虫はマンカや幼体なのです。ウオノエ科寄生虫は成体の、しかも性転換後の雌でしか、体の形から生物種を特定することができません。なので、サヨリヤドリムシの「仲間」ということしかわからなかったようなのです。

候補となる寄生虫種は実質的には2種です。学名でいうと、Mothocya sajoriMothocya parvostisです。実はこの2種、両方ともサヨリの寄生虫で、両方ともサヨリヤドリムシと呼ばれていました。しかし、ウオノエ科研究の歴史の中で、2種に分割され、サヨリに寄生するウオノエ科寄生虫は2種いることになっています(本文最後の段落参照)。

この2種は、一応、成体雌の形態で分類することができなくはないのですが、マンカや幼体ではどちらなのかを形から判別することはできません。なので、それ以上の研究が進んでいませんでした。

ところが最近、このクロダイ稚魚の寄生虫について進展がありました。近年になって発達してきたDNA解析を使うことで、どうやらクロダイについていた寄生虫はMothocya parovstisのほうだとわかったのです。種がわかったことで、他にもいろいろと研究が進んだようです2

一時的な寄生

わかったことの一つは、M. parvostisのクロダイ稚魚の寄生は2ヶ月ほどの一時的なものだということです。

広島湾のクロダイは、5月から7月ごろが産卵期で、生まれた仔魚は1ヶ月ほど海中を漂い、6月下旬くらいから砂浜に着底して、砂浜で泳いでいる姿を見るようになります。

おそらく、付近を泳ぐサヨリに寄生していたM. parvostisの親から生まれたマンカは、着底した直後からクロダイ稚魚に寄生し始めるようです。実際、クロダイ稚魚へのM. parvostisの寄生率は6月下旬には低く、7月上旬にかけて一気に上がってくるようです。最大の寄生率は最大で80%弱になります。

しかし、寄生率はその後低下に転じ、9月にはほとんど寄生が見られなくなります。では、寄生虫はどこに行ったのでしょうか。

子供しかいない

4年間に渡って、クロダイ稚魚を2176個体も集めて寄生虫を調べたようですが、見つかった寄生虫442個体はすべて、マンカか幼体だったようです。成熟した寄生虫が存在しないということは、クロダイ稚魚に寄生している間には子孫を残すことができないということになります。

では、なんのためにM. parvostisはクロダイに寄生しているのでしょうか。

論文の著者は次のように推測しています (本サイト管理者の予想も入ります)。

瀬戸内海は日本有数のサヨリの漁業で、サヨリがたくさん生息しています。しかも、サヨリに対するM. parvostisの寄生率は50%前後と、他のウオノエ科寄生虫と比べても高く、これらの寄生虫が子供を生むと考えると、海中に放たれるマンカの数は膨大なものになるはずです。

これらのマンカはサヨリへの寄生を目指すわけですが、当然、思い通りにサヨリに寄生できないマンカがほとんどのはずです。

マンカは、宿主に出会えなければ1週間程度で死亡するとされているので、普通に考えれば、あぶれたマンカは死ぬしかありません。このあぶれたマンカ達が、起死回生の手段として使っているのが、クロダイ稚魚なのではないでしょうか。

サヨリに寄生できなかったマンカが砂浜に流れつくと、そこにいるクロダイ稚魚にとりあえず寄生して、生き延びているのではないかということです。

しかし、なんらかの理由があって、クロダイに寄生し続けて、大人になることはできないのでしょう。ある程度クロダイ稚魚の鰓で成長し、体力をつけたあと、クロダイから離脱し、再びサヨリへの寄生を目指して遊泳し始めるのではないかと考えられます。9月くらいにはほとんどのM. parvostisがクロダイからすでにクロダイ稚魚から離脱してしまっているので、寄生率が下がっていた、ということのようです。

M. parvostisにとって都合のいいことに、サヨリの稚魚は砂浜に生息するのです。M. parvostisのクロダイ稚魚への寄生は、サヨリに直接寄生できなかったマンカ達が、もう一度サヨリへ寄生するチャンスを得ようとしている結果である可能性が高いです。

言い換えると、クロダイ稚魚はM. parvostisの「中間宿主」のようなものだというのです。

ただ、まだクロダイから離脱した寄生虫がサヨリにうつったという証拠は見つかっていません。ここが証明されるとおもしろいですね。今後の研究に期待したいです。

ところで、この研究で一番の問題だった、M. sajori(サヨリヤドリムシ)とM. parvostis(ブリエラヌシ)ですが、実はこの2種、専門家の間では同じ種なのではないかと推測されています。まだ証明されたわけではありませんが、この問題が原因でクロダイ稚魚の寄生虫については研究が進んでいなかったわけですから、本当に同じ種だったとしたら、なんとも馬鹿らしい話です。

参考文献

1齋藤暢宏・米司 隆,2000.クロダイ稚魚に寄生するMothocya属(等脚目:ウオノエ科)について.うみうし通信,29: 4–6.

2Fujita, H., Kawai, K., Taniguchi, R., Tomano, S., Sanchez, G., Kuramochi, T., & Umino, T. (2020). Infestation of the parasitic isopod Mothocya parvostis on juveniles of the black sea bream Acanthopagrus schlegelii as an optional intermediate host in Hiroshima Bay. Zoological science, 37(6). https://doi.org/10.2108/zs190147

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