タイの口に寄生する「タイノエ」の生態と生活環

マダイやチダイの口の中に、寄生虫を見つけたことはありませんか?その寄生虫がタイノエ (Ceratothoa verrucosa)です。タイノエは非常に大きな寄生虫で、30cmのマダイに3.5 mmのタイノエがつくこともあります。体が大きいため、その殻は分厚くなっており、ゴツゴツとした印象を抱くほどです。時には、タイの口が塞がるほどの大きさのものが寄生していることもあります。

また、「釣りの最中にマダイが針にかかり、途中で軽くなったので針を確認してみると、タイノエだけが針についていた」というエピソードも聞くことがあります。

タイノエを紹介しているWebサイトはたくさんありますが、実際の論文とは異なる間違った内容が、書かれていることも多いので、改めてまとめてみました。

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タイノエがつく魚と寄生場所

現在、タイノエが見つかっている魚種 (宿主) は、マダイ、チダイ、アカムツです*1

マダイ

チダイ

アカムツ


タイノエはこれらの魚の口の上側(天井)に張り付きます。

実は、この寄生場所はウオノエ科寄生虫の中でも珍しいものです。魚の口の中に寄生するウオノエ科寄生虫は多くいますが、一般的に舌の上に張り付くように寄生します。タイノエのように上顎の天井部分に寄生する種は珍しいのです。なぜタイノエだけがこのような寄生の仕方をするようになったのかは分かっていません。

Ceratothoa oestroides
Ceratothoa oestroides
(Boyko, C.B.; Bruce, N.L.; Hadfield, K.A.; Merrin, K.L.; Ota, Y.; Poore, G.C.B.; Taiti, S.; Schotte, M.; Wilson, G.D.F. (Eds) (2008 onwards). World Marine, Freshwater and Terrestrial Isopod Crustaceans database. Ceratothoa oestroides (Risso, 1816). Accessed through: World Register of Marine Species at: http://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=118871 on 2020-01-20)


タイノエの生活史 (ライフサイクル、life cycle)*2

タイノエにもオスとメスがいます。他のウオノエ科寄生虫と同じく、メスはオスより大きな体をしています

タイノエのメス


タイノエのオス

タイノエのメスもサヨリヤドリムシと同じように育房を持っており、この中で卵や幼体を育てます。そして、泳げるまで成長すると、幼体は育房から放出され、新しい宿主を求めて泳ぎ回ります。そして、宿主となる魚を見つけると、その口の中に寄生します。このときのタイノエはオスでもメスでもない雌雄両性と呼ばれる状態にあるようです。

その後成長するに従い、それぞれの寄生虫がオスになるかメスになるか決まり、オスは精巣が、メスは卵巣が発達し始めます。このとき、オスになるかメスになるかが何によって決まっているのかは分かっていません。

また、これらのオスは精巣と卵巣の両方を持っていますが、メスは精巣が完全になくなっているようです。

タイノエは性転換しない

一般的にウオノエ科寄生虫は、幼体がまずオスになり、その後メスになるという性転換を起こします。しかし、他のほとんどのウオノエ科寄生虫と異なり、タイノエでは性転換は起こらないとされています*3。

他の多くのウオノエ科寄生虫が性転換する理由には、「大きなメスの方が、小さなメスよりもたくさんの子供を育てられる」「小さなオスは、大きなオスよりもエネルギーを節約できる」という事情が絡んできます。生涯のうち、体が小さいころはオスとして生き、体が大きくなる生涯の後半はメスとして生きる、という戦略を取っているのです。

タイノエが性転換しないのは、他のウオノエ科寄生虫とは異なる事情がなにかあるのでしょうか。

一方で、「オスは精巣と卵巣の両方を持っていますが、メスは精巣が完全になくなっている」という特徴から考えると、性転換が起きても不思議ではなさそうに感じます。この点に関しては、より詳細な研究を待つしか無いでしょう。

タイノエは日本でサヨリヤドリムシと並んで、有名なウオノエ科寄生虫ですが、口の上側に寄生する、性転換しないなど、ウオノエ科寄生虫としては特殊な特徴を持っています。タイを釣り上げる事があれば、そっと口の中を覗いてみてはいかがでしょうか。

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引用文献

*1山内健生(2016) 日本産魚類に寄生するウオノエ科等脚類. Cancer, 25: 113–116.

*2 Sanada, M., 1941. On sexuality in Cymothoidae, Isopoda. I Rhexana verrucosa Schoedte & Meinert parasitic in the buccal cavity of the porgy, Pogrosomus major (Temminck & Schlegel). Journal of Science of the Hiroshima University. Series B, Div. 1, 9: 209–217.

*3 平岩馨邦. 1937. タイノエの性に就て (予報). 動物学雑誌, 49(3-4): 111.

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