動物が性転換するのは何故?理由は?ウオノエ科寄生虫で解明!

動物の中には、生涯で性別が変わるものがいます。生まれたときはオスだったのに、途中でメスに変わったり、逆にメスからオスに変わったりするのです。このような性転換と呼ばれる現象は、特に魚でよく見られます。
実は、魚の寄生虫であるウオノエでも多くの種が性転換することが知られています。寄生生活をするだけでも興味深いのに性別まで変わる、ロマンがありますよね。
もちろん、寄生虫も必死で生きています。ロマンのために性転換なんていう複雑なことはしません。性転換する背景には、ちゃんと理由があるのです。この「ウオノエ科寄生虫は何故性転換するのか」について調べた、非常に面白い論文*1がありましたので紹介していきたいと思います。この内容はウオノエ科寄生虫だけでなく、魚などの様々な性転換する生物にも通ずるところがあるでしょう
ウオノエの性転換
ウオノエ科を含むワラジムシ類には、性転換するものが結構含まれています。オスからメスに変わる種も、メスからオスに変わる種も両方存在します。ところが、ウオノエ科寄生虫はほぼすべてオスからメスへの性転換です。多くの場合、オスの寄生虫とメスの寄生虫が同じ魚の個体に寄生すると、繁殖が可能になります。

オスからメスへ性転換が始まる「きっかけ」が何なのかはわかっていませんがほかのウオノエ科寄生虫では、すべての寄生虫幼体は最初に全部がオスで、ある魚個体に最初に寄生した幼体がメスに性転換し、あとから寄生してきた2匹目の寄生虫がそのままオスとして成長するとされています。
そしてこのオスも、なんらかの理由でペアのメスが死ぬと、メスに変化するようです。
紹介するのは、ウオノエの一種「Ichthyoxenus fushanensis」を詳しく調べて、ウオノエ科寄生虫のほとんどが性転換する理由を考えた研究です。結果を大まかに説明します。
大きな寄生虫は大きな魚についている
まず、寄生虫の大きさと寄生虫がついている魚の大きさを比べてみました。すると、魚の大きさと寄生虫の大きさには関係があることが分かりました。つまり、大きさ魚ほど、大きな寄生虫がついているのです。つまり、大きな魚のほうが小さな魚よりも強いので、寄生虫はより多くの栄養分を吸い取ることができるのでしょう。
ウオノエは寄生している魚が死んでしまうと、自分も死んでしまいます。なので、寄生虫は吸い取る栄養を、魚を殺さない程度に抑えます。大きな魚のほうが、より多くの栄養を奪っても死なずに堪えてくれるのでしょう。

言い換えると、寄生虫が魚から得ることのできる栄養には限りがあるということです。
大きなメスはたくさんの子供をうめる
では、寄生虫にとって体が大きくなることは何の意味があるのでしょうか。この点を調べるため、メスの寄生虫の大きさと雌が生む子供の数の関係を調べました。
ウオノエ科寄生虫は寄生虫のメスがお腹に持っている育房で子供を育てます。この袋の中に入っている子供(卵)の数を数えたわけです。

その結果、大きな寄生虫ほど多くの子供を1度に産むことができることが明らかになりました。寄生虫のメスはできるだけ大きくなる方が、メスにとっても、そのペアのオスにとっても有利なわけです。

大きなオスは邪魔
ペアとなっているメスとオスの大きさには負の相関がありました。つまり、大きなメスのペアは小さなオス、大きなオスのペアは小さなメスが寄生しているということになります。とはいっても、この寄生虫では常にオスよりメスのほうが大きいので、オスがメスより大きくなることはありません。

なぜこのような現象が起こるかというと、魚から取れる栄養には限りがあるからです。寄生虫が大きくなるには栄養をたくさん取らないといけません。オスの寄生虫が大きくなってしまうと、その分たくさんの栄養を使うので、メスが使える栄養分が減ってしまい、メスはあまり大きくなれないのです。
メスが大きくなれないと、一度に産める子供の数が減ってしまいます。子供の数が少なくなるのは、オスにとってもメスにとっても良くないことです。
性転換はたくさんの子供を残す対策
つまり、小さなオスと大きなメス、という組み合わせのペアがもっとも有利なペアであると言えます。このような有利なペアを作るためにウオノエ科寄生虫はオスからメスへ性転換しているのです。
性転換がなぜ有利なペアをつくることにつながるのでしょうか。まず、当たり前の話ですが寄生虫は生まれた時に一番小さく、魚に寄生して時間がたつほど大きく成長していきます。
なので、小さなオス、大きなメスになりたいなら、生涯のうち小さい前半の時期はオスとして過ごし、大きくなった後半のうちはメスとして過ごせばいいのです。ウオノエ科寄生虫の性転換という特徴はこのような理由で維持されていると考えられます。
生物の行動にどんな意味があるのか、これを考える学問を「行動生態学」といいます。ほかの性転換する生物についても、それぞれの理由があると予想されます。興味のある方はひも解いてみてはいかがでしょうか。
引用文献
*1Tsai, M.-L. Li, J.-J., & Dai, C.-F., 1999. Why selection fa-vors protandrous sex change for the parasitic isopod, Ichthyoxenus fushanensis (Isopoda: Cymothoidae). Evolutionary Ecology, 13: 327–338.
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