サヨリの寄生虫サヨリヤドリムシの仲間 Mothocya epimerica の生活環

ウオノエ科寄生虫は魚の養殖場で養殖魚に問題を引き起こすだけでなく、先日紹介したように高い利用価値がありますこちら。ところが、日本のウオノエ科寄生虫の研究は遅れており、詳しい生態が明らかになっている種はほとんどいません。例外的にタイノエやサヨリヤドリムシは生態(生活史)が分かっていますが、これは非常に古い(戦時中)研究なので、曖昧な部分がたくさんあります。

一方、海外ではウオノエ科寄生虫の研究は日本より活発に行われています。イタリアに住むサヨリヤドリムシの仲間、Mothocya epimericaについて詳しく生活史を明らかにした研究を紹介します。サヨリヤドリムシとの共通点も多いと思います。

Mothocya epimericaとは

このM. epimericaは日本には生息していない事もあり、日本語の名前がありませんので、この記事ではエピメリカと呼ぶことにします。エピメリカはヨーロッパのアドリア海で、キスの仲間(トウゴロウイワシ上科・アテリナ属)の魚に寄生します。寄生する場所はサヨリヤドリムシと同じエラの中です。

写真

A   Head of Athernia boyeri with branchial chamber exposed to show presence of the parasitic isopod Mothocya epimerica [arrowed]: B , Ventral view of a Mothocya showing attached bivalves and sites of attached bivalves [arrows]: B* margin of a second specimen with nine specimens attached: C , Photomicrographs of the group of mytilids removed from the pleon of Mothocya seen in Fig. 1B: Fig. 1B: D , Scanning electron micrograph of the hinge of a mytilid pediveliger, the far right individual in Fig. 1C: E–F , Scanning electron micrograph of the largest pediveliger seen in Fig. 1C, lateral and dorsal views. 

M. epimerica A Öktener, PG Oliver, DT Cakir. (2014) Mytilus (Mollusca: Bivalvia) epibiontic on the fish parasite Mothyocya epimerica (Crustacea: Isopoda) in the Sea of Marmara. Journal of Conchology 41(6):759-764

紹介する研究は、イタリアにあるレジーナ湖(アドリア海とつながる)で行われた研究です。イタリアは地中海性気候で、日本と同じような四季があります。この場所で、エピメリカとエピメリカが寄生する魚(Atherina boyeri)を採集し、エピメリカの生活史を調べています。

Google Earth
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エピメリカの生活史

明らかになったエピメリカの生活史を紹介します。まず、捕まえた魚のうち、何%がエピメリカに寄生されていたかを、1ヶ月おきに調べたようです。すると、エピメリカが見つかるのは5月から1月までの比較的温かい時期だけで、2月から4月の寒い時期には見つかりませんでした。

温かい時期の中でも、6、9、11、1月にエピメリカに寄生された魚がぐんと増えるだけでなく、寄生虫の幼体が増えるようです。つまり、これらの月がエピメリカの産卵期であり、なんと1年に産卵期が4回で、2ヶ月おきに子供を生んでいるのです。加えて、エピメリカの寿命は6ヶ月ほどだと予想されていますが、寿命と関係なく寒くなれば死ぬと思われます。

性転換

また、エピメリカは他のウオノエ科寄生虫と同じで、オスからメスへ性転換します。

まず、海中に産み落とされたエピメリカの幼体は、泳ぎ回って宿主となる魚を探します。そして、宿主をみつけるとエラに寄生し、生涯で最初の脱皮をして、すべての幼体がオスの形になります。このあと、このオスは他のエピメリカが同じ魚に寄生してくるまで、成長しながら待ちます。子供を産むには2匹のエピメリカが同じ寄生虫に寄生していないといけないのです。

そして、2匹目のエピメリカがその魚に寄生してきた時、もともといたエピメリカがメスへ性転換を始めます。後から寄生してきたエピメリカはオスとして成長し、この2匹が交尾して子供を生むのです。

では、後から寄生してきたエピメリカにはメスになる機会は無いのでしょうか。そうではありません。もともといたエピメリカ(メスになった)が死んだ後、3匹目のエピメリカが寄生してくると、2匹目のエピメリカがメスへの性転換を始めます。

この研究では、1匹のエピメリカがオスとして繁殖できるのは最大2回、メスとして参加できるのも2回と予想しています。

エピメリカは日本には生息していないので、この研究の内容を普段から体験することはないでしょう。しかし、日本のウオノエについて考える時、この研究を知っていると見えてくるものもあるでしょう。

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