「ウオノエ」という寄生虫の研究?役に立つの?寄生虫を使った魚類系郡の識別

このwebサイトでは、ウオノエ科寄生虫について紹介しています。ところで、「こんな寄生虫について調べるなんて、物好きな奴らだなあ」と思っていませんか?実はウオノエ科寄生虫は、養殖業界で重要な寄生虫なだけでなく、様々な利用のされ方をしています。その中でも、寄生虫を使って魚をグループ分けしてやろう、という変わった研究*1を紹介します。

魚類系郡とは?

魚類系郡とは、簡単にいうと魚のグループです。例えば、皆さんは九州のメダカと東北のメダカが同じだと思いますか?実は違います。ただし、種は同じで、系郡が違うのです。これは、九州のメダカが本州のメダカと出会って子供を残すことは基本的にないので、遺伝子が混ざらないからです。メダカは日本各地に生息していますが、地域ごとに細かく系群が異なるので、地域によって少しずつ(見た目ではわからなくても)違いがあります。

海にすむ魚にも、系郡に分けられるものがあります。その一つが、チリ沖やペルー沖に生息するチリマアジ (学名Trachurus symmetricus murphyi) です。このチリマアジでは、南太平洋に系郡が一つだけある、という説とチリ南部とチリ北部に2つの系郡があるという説があり、議論され続けていました。

なぜ、系郡の数が重要かというと、水産資源として保護する際は、系郡ごとに別々に保護する必要があるからです。本当は2つ系郡があったのに、1つだと思って間違った保護のやり方をしていると、片方の系郡が絶滅してしまった、という事態に発展しかねません。こうなると、生態系にどのような影響がでるか、予想もつきません。

寄生虫を使って魚の系郡を調べる

このチリマアジの系郡が1つなのか、2つなのかを調べる方法として、ウオノエ科を含めた寄生虫が使われました。

どのように寄生虫が使われたかというと、チリ南部とチリ北部でチリマアジを合計3946個体採集し、そのチリマアジに寄生する寄生虫の種類が、チリ南部と北部で同じなのか、異なるのかを調べました

系郡が同じであれば、チリマアジはチリ南部と北部の境なく泳ぎまわっているでしょうから、寄生虫の種類に違いはないと予想できます。一方で、系郡が分かれているのなら、チリ南部と北部のチリマアジは混ざらないので、地域によって寄生虫の種類は異なると考えられます。

その結果、チリ北部のチリマアジにはウオノエ科寄生虫の中でもタイノエに近い、ヒゲブトウオノエ属の寄生虫が多く寄生していました。一方、チリ南部のチリマアジにはアニサキスの仲間が多く寄生していたようです。

Ceratothoa oestroides
WoRMS http://www.marinespecies.org/aphia.php?p=image&tid=118871&pic=50253
アニサキス


このように、チリ北部と南部で多く寄生する寄生虫がことなるので、チリマアジはチリ南部と北部に2つの系群があると考えられます。もちろん、他のアプローチの研究結果を含めて、最終的な結論が決められるでしょう。

引用文献

*1George-Nascimento M. (2000) Geographical variations in the jack mackerel Trachurus symmetricus murphyi populations in the southeastern Pacific Ocean as evidenced from the associated parasite communities. Journal of Parasitology 86: 929–932

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