寄生虫「ウオノエ」は魚に害がある?魚との関わり

ダンゴムシのような見た目の寄生虫ウオノエ。ウオノエは魚に寄生して生活するわけですから、魚の血液や肉を栄養として使っているわけです。魚にとっては迷惑な話なわけですが、この魚と寄生虫の間にはもっと複雑な関わり合いがあるのです。今回は魚と寄生虫の関係についてお話ししたいと思います。

魚と寄生虫の出会い

まず、ウオノエの雌はお腹に「育房」と呼ばれる袋を持っており、この中で卵や幼体を育てます。幼体が十分に成長すると、育房から放出され、宿主を求めて泳ぎ周ります (例えばサヨリヤドリムシの幼体は3 mmほど)。とはいえ、広い海の中で当てもなく探し回るわけですから、宿主を見つけることができるのはごく少数でしょう。

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多くの場合、ウオノエの幼体が最初に寄生するのは幼魚であると考えられています。なぜそのようなことが分かるのでしょうか。これは、魚と寄生虫のサイズの間には正の相関があることから予想できます。つまり、大きな魚には大きな寄生虫が、小さな魚には小さな寄生虫が寄生しているのです。これは、魚が小さい頃に寄生虫が寄生し、共に大きくなっているからだと考えられています*1

もちろん、寄生虫の幼体が成魚に寄生できないわけではありません。成魚からも、小さな寄生虫幼体が見つかります。しかし、割合としては少ないので*2、遊泳能力の高い成魚に寄生虫幼体が寄生するのは比較的難しいのではないでしょうか。そのため、寄生虫幼体は幼魚をメインのターゲットにしていると予想できます。

ウオノエは生まれたときには、すべての個体がオスです。しかし、魚に寄生した後、メスに変化するのです。

メスに変化するには条件があり、魚に寄生したとき、同種のウオノエ個体がその魚にいなければ、その個体はメスに変化すると考えられます。では、すでに仲間が寄生した魚にいたときはどうなるのでしょうか。その時は、新たに寄生した個体がオスとして、もともといたメスと交尾するのです。

概ねこのようにして、ウオノエの仲間は生活しています。

寄生虫は魚を殺す?

寄生虫には様々な種類があり、寄生した宿主を殺してしまう寄生虫もいます。しかし、ウオノエは先程もお話しましたが、幼魚に寄生したあと魚と一緒に成長していきます。つまり、魚を殺さずに長い間魚と一緒にいるのです。

むしろ、魚に死んでもらっては困ります。ウオノエは魚に寄生した後、成長すると(特にメス)遊泳能力を失います*3。寄生していた魚が死んだときは、他の魚に寄生し直すのはほとんど不可能なので、寄生虫も一緒に死ぬしか無いのです。

このため、ウオノエは普通、魚が死ぬほどの負荷をかけたりはしません*4。とはいえ、ウオノエはできるだけ多くの栄養がほしいので、魚が死なないギリギリの量の栄養を、魚から吸い取り続けるのです。ウオノエは、このバランスを保てるギリギリの量を知っているのでしょう。

しかし、このバランスが崩れるときもあります。それは、魚に大きな害を与える別の要因がある時です。例えば、環境汚染や漁獲などです。このような別の要因がある場合、寄生虫が何もしなくても、魚が死ぬ確率が高くなります*4。このような環境では、ウオノエは魚を気遣うよりも、できるだけ多くの栄養を得て、早く子供を残したほうが有利になります。いくら気遣っても、魚が死んでしまう確率は高いのですから。

寄生虫ウオノエと魚の間には、絶妙なバランスの関係が成り立っています。環境汚染や魚のとりすぎなどは、このバランスを崩しかねないのです。

引用文献

*1Welicky RL, Malherbe W, Hadfield KA, Smit NJ (2019) Understanding growth relationships of African cymothoid fish parasitic isopods using specimens from museum and field collections. Int J Parasitol: Parasites Wildl 8:182–187

*3Inoue M (1941) On sexuality in Cymothoidae, Isopoda Ⅱ Irona melanosticta Schoedte & Meinert parasitic in the branchial cavity of the halfbeak, Hyporhamphus sajori (Temminck & Schlegel). Journal of science of the Hiroshima University, series B, Div. 1 9: 219–238, 1 pl

*4Kawanishi R, Sogabe A, Nishimoto R, Hata H (2016) Spatial variation in the parasitic isopod load of the Japanese halfbeak in western Japan. Dis Aquat Organ 122: 13–19

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